湖尻純(こじり じゅん)
だれでもモバイル株式会社 代表取締役
「審査不要・保証人不要でも誰でもスマホを持てる社会」を目指し、通信業界に新しい選択肢を提供。いわゆる携帯ブラックと呼ばれる方々にも通信インフラを提供できるよう、レンタルスマホやMVNO事業の改革に取り組んできた第一人者。現在は、生活保護受給者や生活に困難を抱える方々に向けて、家具・賃貸・通信など生活基盤を支えるサービスをワンストップで展開。
「生活保護を受けながら、車を持ち続けることはできるのだろうか?」
病気や失業など、様々な事情で生活に困窮した際に、私たちの暮らしを支えるセーフティーネットが「生活保護制度」です。
この制度は、日本国憲法第25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」を営む権利を守り、再び自立した生活を送れるよう手助けすることを目的としています。
多くの方がこの制度について調べる中で、お金や住居と並んで大きな疑問となるのが「車の所有」についてです。
特に、通勤や通院、買い物などで車が欠かせない地域にお住まいの方にとっては、死活問題ともいえるでしょう。
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結論から申し上げると、生活保護を受給している間の車の所有は、原則として認められていません。
これは、生活保護制度の「資産の活用」という大原則に基づいています。
制度を利用する前に、まずはご自身が保有している資産(預貯金、生命保険、土地、家屋、そして自動車など)を最大限、生活の維持のために活用することが求められるのです。
車は一般的に資産価値が高く、売却することで当面の生活費を賄うことが可能と見なされます。
そのため、国民の税金によって支えられている生活保護制度の公平性を保つ観点からも、「売却して生活費に充てられる車を所有したまま、保護費を受け取る」ことは、基本的には認められないというわけです。
しかし、もしこのルールが全てのケースで画一的に適用されてしまったら、どうなるでしょうか。
車がなければ仕事に行けず自立の道が閉ざされたり、必要な治療を受けられなくなったりと、かえって生活を困窮させてしまう可能性があります。
このルールは絶対的なものではなく、生活の維持や自立のために「車が不可欠である」と判断される場合には、例外的に所有が認められる道が残されています。
この記事では、生活保護制度の基本から一歩踏み込み、以下のような疑問を一つひとつ解き明かしていきます。
どのような「条件」を満たせば、車の所有が認められるのか?
「通勤」や「通院」といった具体的なケースとは?所有が認められる車に、価値や種類の基準はあるのか?
実際に所有を認めてもらうための手続きはどうすればいいのか?
車の所有を諦める前に、まずは正しい知識を得ることが重要です。
なぜ車はそれほど厳しく扱われるのでしょうか。
それは生活保護という制度の根幹をなす「資産の活用」という基本原則にあります。
この原則は、「利用し得る資産は、最低限度の生活の維持のためにまず活用していただく」という考え方です。生活保護は国民の税金を財源とする、社会全体のセーフティーネットです。
そのため、公的な支援を受ける前に、ご自身の持てる力(能力や資産)を最大限に活用することが前提となります。
ここでいう「資産」とは、具体的に以下のようなものを指します。
このように、自動車は預貯金や有価証券などと並び、「売却して現金化し、生活費に充てることが可能な財産」として位置づけられているのです。
福祉事務所の視点では、例えば50万円の価値がある車を所有している場合、それは「50万円の現金を持っている」こととほぼ同義と見なされます。
その現金を活用すれば、一定期間の生活費を賄うことができ、その間は保護を必要としない、という判断になるのが基本です。
この背景には、制度の「公平性」の問題があります。
もし、売却すれば生活費になる資産を持ったままの人が保護を受けられるとなると、必死に働いて税金を納めている国民や、本当に何も資産がない状態で支援を求めている人たちとの間に、不公平感が生まれてしまいます。
こうした事態を防ぎ、限られた財源を本当に支援が必要な人へ届けるために、「資産の活用」は不可欠な原則なのです。
つまり、車の所有が認められるケースとは、その車が単なる「売却可能な資産」ではなく、「最低限度の生活の維持や、自立の助長に不可欠な道具」であると、客観的に証明された場合に限られるのです。
車の所有が認められる代表的なケースがあります。それが「就労」です。
通勤や個人事業のために車が不可欠な場合、生活保護制度のもう一つの重要な目的である「自立の助長」に直結するため、例外として認められる可能性が高いのです。
就労は、経済的な自立への最も重要なステップです。
もし車がなければその仕事を続けられない、あるいは新しい仕事に就くことができないのであれば、本末転倒になってしまいます。
そのため、以下のような状況では、通勤用の車を所有することが認められる場合があります。
重要なのは、「車通勤のほうが楽だから」といった個人的な利便性ではなく、「車がなければ就労の維持、あるいは開始が客観的に困難である」と福祉事務所が判断できるかどうかです。
この必要性を、時刻表や地図などを用いて具体的に説明することが求められます。
個人事業主(一人親方の大工、軽貨物運送、移動販売など)にとって、車は単なる移動手段ではなく、事業そのものを成り立たせるための「生産財」です。
このようなケースでも、車の所有が認められる可能性があります。
この場合の判断基準は、「その事業によって、生活保護からの脱却や、保護費の大幅な削減が見込まれるか」という点です。
福祉事務所は、その車を使って事業を行うことで得られる収入の見込みや事業の継続性を慎重に審査します。
事業計画や収支の見込みを提出し、その車が自立に向けた有効な投資であることを示す必要があります。
もし事業による収入がごくわずかで、自立への貢献度が低いと判断された場合、車は「事業の道具」ではなく、やはり「売却すべき資産」と見なされてしまう可能性もあります。
通勤・事業いずれのケースでも、車は「贅沢品」ではなく「自立して収入を得るための不可欠な道具」として、その必要性を客観的に証明することが鍵となります。
通勤・事業での車の利用以外に、生活保護制度のもう一つの柱である「最低限度の生活の保障」があります。
これは生命や健康を守るために車が不可欠となるケースです。
病気や障害を抱える方にとって、定期的な通院は命綱です。公共交通機関の利用が身体的・精神的に大きな負担となる場合、通院用の車の所有が認められる可能性があります。
具体的には、以下のような状況が考慮されます。
これらのケースでは、「車がなければ適切な医療を受ける権利が損なわれる」と判断され、所有が認められやすくなります。
また、親族など他の家族による送迎の協力が得られない、といった事情も総合的に判断されます。
その必要性を客観的に示すため、多くの場合、医師による「自動車がなければ通院が困難である」旨が記された診断書や意見書の提出が求められます。
ご自身の問題だけでなく、生活保護を受給している方が、同居する家族の介護のために車を必要とする場合も、所有が認められることがあります。
例えば、以下のようなケースです。
この場合も、判断の基準は通院と同様です。
介護される方の病状や障害の程度、他の交通手段の有無、他に送迎を頼める人がいない、といった状況から、「その車がなければ、家族の介護という役割を全うできず、世帯全体の生活維持が困難になる」かどうかが審査されます。
通院・介護のいずれのケースにおいても、単に「あったら便利」というレベルではなく、「なければ生命や健康の維持が困難になる」という切実な必要性を、診断書などの客観的な資料を添えてケースワーカーに伝えることが極めて重要です。
お住まいの地域の地理的な条件によって車がなければ日常生活そのものが成り立たないと判断される場合や、自立に向けた特別な事情がある場合でも車を持つことができます。
公共交通機関が網の目のように発達している都市部では、買い物や役所での手続きなど、日常生活で車の必要性が高いと判断されることは稀です。
しかし、地方の過疎地域や山間部、豪雪地帯などでは状況が全く異なります。
上記のような状況では、車は贅沢品ではなく、食料の確保や社会的なつながりを維持するための「ライフライン」と見なされます。
そのため、通勤や通院といった特定の目的がなくても、日常生活の維持のために車の所有が認められることがあります。
近年、福祉事務所の運用もより現実に即したものになってきており、こうした地域ごとの特殊性を考慮し、車の保有を柔軟に認める「弾力的運用」の動きが広がっています。
もう一つ、非常に重要な特例があります。
それは、「おおむね6ヶ月以内に就職して保護から脱却する見込みが高い」と判断された場合に、就職活動やその後の通勤に使うための車を、一時的に保有することが認められるケースです。
例えば、保護を申請した時点では失業していても、すぐに具体的な就職活動を始める予定があり、車がなければ応募できる求人が極端に限られてしまう、といった場合がこれにあたります。
これは、将来の自立の可能性を閉ざさないための現実的な措置です。
保護開始と同時に機械的に「車を処分してください」と指導することが、かえって本人の就職活動を妨げ、自立を遠ざけてしまうという本末転倒な事態を避ける目的があります。
もちろん、これはあくまで「一時的」な特例であり、就職の見込みなどについてケースワーカーに説得力のある説明をする必要があります。
このように、生活保護制度は画一的なルールだけでなく、個々の事情に応じた柔軟な側面も持ち合わせています。
では、所有が認められるとして、どのような車でも良いのでしょうか。
通勤や通院など、やむを得ない事情がある場合に車の所有が認められますが、「許可が出ればどのような車でも乗っていい」というわけではありません。
所有が認められる車は、あくまで「贅沢品」ではなく「必要最低限の移動手段」でなければなりません。
その判断基準となるのが、車の「資産価値」と「種類」です。
最も重視されるのが、その車の「処分価値(売却した場合の市場価格)」です。生活保護制度では、車は現金化できる資産と見なされるのが原則でした。
そのため、例外的に所有を認める場合でも、その資産価値は社会通念上、著しく高額であってはなりません。
明確な全国一律の基準額はありませんが、多くの自治体で目安とされているのが、「処分価値が20万円程度を著しく超えないこと」です。
これは、事業用の機械や店舗の什器など、他の資産の保有が認められる際の基準額に準じた考え方です。
この「処分価値20万円」を実態に当てはめると、初年度登録から長年経過した国産のコンパクトカーや軽自動車などが該当する場合が多くなります。
新車や登録から年数の浅い中古車は、ほとんどの場合この基準を超えてしまうため、所有は難しいでしょう。
車の種類も重要な判断材料です。
以下のような車は、生活必需品とは到底見なされず、所有は認められません。
また、排気量についても目安があり、一般的に2,000ccを超えるような大きな車は、維持費も高額になる傾向があるため、必要性が認められにくいとされています。
ただし、これはあくまで目安です。
例えば、家族の介護で車椅子ごと乗せる必要があるなど、合理的な理由があれば、ワンボックスカーなどの所有が認められるケースもあります。
これらの基準は、法律で厳密に定められた絶対的なものではなく、最終的にはお住まいの自治体の福祉事務所(ケースワーカー)が、個別の事情を総合的に考慮して判断します。
重要なのは、「なぜこの車でなければならないのか」を、生活の維持や自立との関連で、客観的かつ合理的に説明できることです。
「贅沢品」ではなく「必要最低限の道具」であることを理解してもらうことが、所有許可を得るための鍵となります。
実際に車の所有を認めてもらうための具体的な手続きと、申請から決定までの流れを4つのステップに分けて解説します。
正しい手順を踏むことが、スムーズな承認への一番の近道です。
すべての手続きは、担当のケースワーカーへの「事前相談」から始まります。これは、申請プロセス全体において最も重要なステップです。
絶対にやってはいけないのが、自己判断で先に車を購入したり、相談なく維持し続けたりすることです。
これは「資産隠し」と見なされ、最悪の場合、生活保護の停止や廃止、不正受給として費用の返還を求められるなど、非常に厳しい処分に繋がる可能性があります。
まずは正直に「かくかくの理由で、車の所有を検討したいのですが」とケースワーカーに相談してください。
そうすることで、あなたの状況で所有が認められる可能性があるか、どのような書類が必要かなど、具体的なアドバイスをもらえます。
この最初の相談が、信頼関係を築き、その後の手続きを円滑に進めるための土台となります。
ケースワーカーとの相談の上で申請に進むことになったら、必要書類を準備します。
一般的に、以下のような書類の提出を求められます。(※自治体や個別の状況により異なります)
必要性を客観的に証明する資料
書類を提出すると、福祉事務所内で審査が行われます。
ケースワーカーは提出された書類をもとに、上司の承認を得るための内部的な手続きを進めます。
審査では、主に以下の点がチェックされます。
審査の結果、車の所有が「承認」されるか「否認」されるかが決定し、通知されます。
福祉事務所から車の所有を無事に承認された…と、安心してはいけません。
なぜなら、車の所有が認められることと、その「維持費」が支給されることは、全く別の話だからです。
結論から申し上げると、車の所有・使用にかかる費用は、生活保護費からは一切支給されません。すべてご自身の負担となります。
生活保護費は、あくまで国が定めた最低限度の生活を営むための費用です。車の維持にかかる費用は、この「最低限度の生活」の範囲外と見なされます。
具体的には、以下のような費用はすべて、就労で得た収入などの中からご自身で計画的に捻出しなければなりません。
これらの費用を生活保護費から支払うことは認められていません。
もし就労収入などがなく、維持費を支払うことができなくなれば、結果的に車を手放すよう指導されることになります。
維持費の中でも、特に重要で、福祉事務所から加入を強く指導される(多くの場合は所有許可の必須条件となる)のが「任意保険」です。
車を持つ以上、交通事故の加害者になってしまうリスクは誰にでもあります。
法律で加入が義務付けられている「自賠責保険」は、対人事故の被害者への補償のみで、しかも支払額に上限があります。
もし相手の車を壊してしまった場合の「対物賠償」や、自分自身の怪我の治療費などは一切補償されません。
万が一、大きな事故を起こして数千万円もの損害賠償を請求されたらどうなるでしょうか。
到底支払うことはできず、被害者に十分な補償ができないばかりか、ご自身の人生も破綻してしまいます。
こうした最悪の事態を防ぐためのセーフティネットが、任意保険なのです。
このため、福祉事務所は受給者のリスク管理の観点から、任意保険への加入を許可の条件としているのです。
車の所有を申請する前に、これらの維持費、特に保険料が年間でいくらかかるのかを調べ、ご自身の収入の中から本当に支払い続けられるのか、冷静にシミュレーションすることが不可欠です。
車は所有を認められた後も、継続的な責任と費用が伴う「高価な道具」です。
そのことを忘れず、計画的な資金管理を徹底することが、安定した生活と車の利用を両立させるための鍵となります。
車の所有に関するルールは複雑ですが、ポイントを整理すると以下のようになります。
生活保護制度では、車は売却して生活費に充てるべき「資産」と見なされるため、原則として所有は認められません。
ただし、これは絶対的なルールではありません。
以下の例のように、車が「生活の維持や自立に不可欠」であると客観的に証明できる場合は、例外的に所有が認められる可能性があります。
所有が認められる車は、資産価値が低く(目安として処分価値20万円程度)、社会通念上贅沢品でないことが大前提です。
また、ガソリン代や保険料などの維持費はすべて自己負担となります。
「独断で判断せず、どんな状況であれ、まずは担当のケースワーカーに正直に相談してください」
「相談したら、車を手放せと言われるのではないか…」と不安に思う気持ちは、痛いほどわかります。
しかし、黙って所有し続けることは、不正受給という最も重い処分に繋がりかねない、非常に危険な行為です。
ケースワーカーは、あなたの生活を監視するだけの存在ではありません。あなたの状況を最もよく理解し、法律や制度に則って、自立に向けた最善の方法を一緒に考えてくれるパートナーです。
正直に相談することで、ご自身の状況に合った正確な情報を得られ、無用なトラブルを避けることができます。
もし、生活保護の申請前でどこに相談すればいいかわからない、あるいは行政とのやりとりに不安があるという方は、お住まいの市区町村役場にある「福祉担当窓口」が最初の相談先となります。
また、近年はNPO法人などの民間支援団体が、生活に困窮する方々の相談に乗ったり、必要に応じて行政手続きに同行したりする支援も行っています。
一人で抱え込まず、こうした外部の力を頼ることも考えてみてください。